なぜ民泊ビジネスが流行るのかー民泊問題に詳しい弁護士に聞く(1)

民泊やAirbnbの利用に関わる法律問題や規制緩和の状況について、ホストとなる場合に想定すべきリスクについて解説しています。

更新日:2016年03月30日

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イエシルコラム編集部

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IESHIL編集部

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この記事の要点
  • 民泊やAirbnbの利用が直ちに違法になるという訳ではない
  • 国家戦略特別区で「外国人滞在施設経営事業」では特例ができる
  • 適法でも、民泊ホストに生ずる可能性のあるリスクには十分注意すべき
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民泊は違法なのか?

ㅡㅡ京都のマンションでの無許可で民泊を営んでいた業者が、旅館業法違反の疑いで書類送検されましたが、Airbnbや民泊は違法になるのでしょうか。

三平氏:京都のマンションでの摘発事例は、Airbnbなどのマッチングサービスを使ったものではないようです。民泊やAirbnbを使うことが、それだけで直ちに違法となるものではありません。反復継続や具体的な「宿泊」の態様によって旅館業法の適用の有無が違います。基準も細かいところは曖昧なままです。

これまでに裁判所で争うケースがほぼゼロだった。すなわち「判例がない」という事情があるのです。その理由は、社会・産業の構造が背景にあります。インターネット普及以前は宿泊サービスの提供はそれなりの事業規模の企業に限定されていました。個人や小規模資本の事業では「集客や宿泊者の募集・確保」が非常に難しかったからです。比較的大手の企業だけが宿泊サービスの提供者たりうる、という「石器時代」が長く続きました。

これまでの状況では、監督官庁がひと言で言えば(行政指導をすれば)、「企業は従順に従う」という関係が醸成されていました。「官製マーケット」と言われるものです。そうした環境では、行政からさらに司法、刑事裁判にステップアップする、ということはまず生じなかったのです。

実務的・現実的な視点としては、違法かどうか、ということよりも、「どのような場合に検挙すべきか」が重要になっています。これは事業者の関心事でもありますが、本来は保健所・警察の悩みです。さらに言えば、旅館業の団体が保健所に調査を要請する対象をピックアップするときの検討事項ということです。

なぜ民泊ビジネスが流行るのか

ㅡㅡ 一部の企業や個人の間で、Airbnbや民泊の運営事業、また関連する支援ビジネスが盛んになってきていますが、どのような背景があるのでしょうか。

三平氏:根本的な背景はインターネットの普及です。普及以前は情報流通がマスコミ各社に独占されていた状態でしたが、インターネット普及によって誰でもほぼ無料で広範囲に情報発信ができるようになりました。情報流通が民主化・自由化されたと言えます。今になってみると、以前(石器時代)の「大企業の情報流通独占状態」が異常だったように思います。

このようにインターネット普及前は、事業への新規参入が止められていたのです。そうすると独占の状態となり、サービスのクオリティ低下・料金アップにつながります。現在の携帯電話・通信キャリアの通信料の高止まり状態を考えるとよく分かるでしょう。いずれにしても、過去の構造はユーザーの便益を損なうものであったと実感します。インターネットの普及により、小規模の企業や個人が利益を取り戻す動きが生じているのだと思います。

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特別区での旅館業法の特例とは

ㅡㅡ政府が認める特別区であれば、民泊のホストとなっても問題ないのでしょうか。

三平氏:外国人滞在施設経営事業という制度の整備の完了が間近です。この制度は、6泊7日以上、外国人対応可能などの条件をクリアすれば旅館業の「特定認定」を受けられる制度です。要するに、従来の旅館業許可よりも緩和された「認定」制度であり、いわば「簡易型許可」というようなものです。

この認定を受ければ、当然、そのルールの範囲内で宿泊サービスを提供することは「適法」です。ルールの大きなところは「6泊7日以上」という滞在期間の制限です。ただ、細かいルールはこれから条例・通達で決められるところです。この設定・さじ加減1つで「事業として成り立たない」ものになるリスクも指摘されています。

株式会社百戦錬磨と、とまれる株式会社という事業者が、この制度を利用した宿泊サービスのマッチングやサポートを行うと公表しています。「STAY JAPAN」(https://stayjapan.com/)というサービス名です。百戦錬磨さんらも「官によってマーケットがつぶされる(適法だが事業ができない)」ことになるのを心配しているのではないかと思います。

民泊のホストになることでのリスクは

ㅡㅡAirbnb・民泊のホストとなることで見込まれるリスクには、どのようなことがあるのでしょうか。マンションの場合を例に教えてください。

三平氏:ケースごとに説明します。

  • 分譲マンションの場合は、管理規約と抵触し、禁止請求などを受けることなど。
  • 賃貸物件は、賃貸借契約と抵触し、解除・明渡請求を受けるなど。
  • 分譲マンションでの住宅ローンの期限の利益喪失

一般の住宅ローンは、自身が居住する用途が前提となっています。事業的な用途で使用すると「期限の利益喪失」に該当することがあります。つまり約款上の「ローン残額の一括請求を受ける」という条項です。通常、少しずつしか払えないためにローンを組んでいるはずですから、一括請求を受けると「払えない」状況となり競売をかけられるリスクにつながります。

・分譲マンションでの税務上の優遇措置適用除外

住宅ローン控除などで、自身で居住する建物については税務上の優遇措置があります。住宅ローンの残高を基に金利分について所得税から控除を受ける制度が代表的です。これも事業的な用途があった場合は対象外となる可能性があります。税金が控除される制度が使えなくなるということです。

・確定申告・納税義務

所得税・法人税・消費税などの納税が必要になることがあります。個人の消費税については「事業」の売上が対象となっています。消費税の申告・納税をすると自ら「事業的規模」と認めていることになるというジレンマが出てきます。
(参考情報:【不動産の貸付×消費税|課税or非課税|民泊×ジレンマ→納税回避現象】
http://www.mc-law.jp/kigyohomu/20987/ )

・保険の適用の有無

火災の場合などは深刻で、事業用途の場合、一般住宅用保険には該当しなくなる可能性があります。「免責事由」に該当し、保険が使えなくなる、というリスクです。宿泊者の失火で火災・延焼が生じた場合、被害は莫大になります。保険が使えないと、経済的に非常に大きなダメージを受けてしまいます。

・募集

宿泊者を募集するあたり、旅行代理店の利用がしにくい状況にあります。大手旅行代理店の多くは「旅館業許可」を掲載の条件にしているからです。ところで、最近「旅館業許可なしで適法となる宿泊サービス」が登場しています。政府の方針により通達で始まった「イベント民泊」という制度です。今後は旅行代理店の掲載の条件自体が、従来の設定から変わっていくかもしれません。

(以上、第2回に続く)

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