マイナス金利で中古マンション市場はどうなっていくのか?

マイナス金利導入後の首都圏の中古マンションの動向を各種の指標を元に解説します。

更新日:2016年04月13日

イエシルコラム編集部さんのプロフィール画像

イエシルコラム編集部

株式会社リブセンス

IESHIL編集部

東京・神奈川・千葉・埼玉の中古マンション価格査定サイトIESHIL(イエシル)が運営。 イエシルには宅建士、FPなど有資格者のイエシルアドバイザーが所属。ネットで調べてわからないことも質問できるイエシル査定サービスを展開しています。

この記事の要点
  • 首都圏のマンション価格は上昇は、金融緩和と、それによって円安に傾き外国人が実物不動産とJ-REATを購入したという要因が大きい
  • 新築分譲マンションは、2016年には着工戸数が前年比マイナス17%程度になる見通し
  • 中古マンション市場は市況悪化に入るのか、それとも実需と関係の薄いマンションバブルに突入するのか、今は、警戒すべき踊り場にある
マイナス金利で中古マンション市場はどうなっていくのか?の画像

景気動向について、政府から気になるデータが相次いで発表されました。ひとつは、3月22日に国土交通省が発表した16年1月1日現在の公示地価で、全国平均で前年比0.1%上昇し8年ぶりにプラスに転じました。

一方、翌23日発表の3月月例経済報告では、政府が国内景気の判断を引き下げました。下方修正は5か月ぶりで、「緩やかな回復基調に変更はない」としつつも、2月までの「一部に弱さもみられる」の「一部に」を削り「緩やかな回復基調に変更はない。弱さもみられる」と変えたのです。

この、地価が上がって景気が弱含み、という気になる発表の謎を解くには、2つの補助線が必要です。

首都圏のマンション価格は上昇傾向が続く

国土交通省が16年2月に発表した15年11月の不動産価格指数(住宅)のうち、マンション指数(全国)は123.5(2010年平均を100とした数字。対前年同月比+8.1%)になりました。

住宅全体は104.9(対前年同月比+2.9%)ですが、住宅地が95.4(対前年同月比−0.8%)、戸建て住宅は99.0(対前年同月比+0.1%)に比べ、マンションの上昇が突出していると分かります。

マイナス金利で中古マンション市場はどうなっていくのか?の画像

(出典:国土交通省 「不動産価格指数(住宅)(全国)」(2015年11月まで))

マンションだけでは、大震災の復興需要のある東北地方(164.7=対前年同月比6.7%)を別として南関東圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)が121.5(対前年同月比8.2%)でうち東京都は124.5(対前年同月比8.1%)、名古屋圏(岐阜、愛知、三重)は122.5(対前年同月比+10.0%)、京阪神圏(京都、大阪、兵庫)は124.7(対前年同月比8.2%)となっていて、都市圏の価格上昇が指数を押し上げていると分かります。

マンションの価格上昇は13年3月から33か月連続ですが、その少し前、12年12月に第2次安倍政権が誕生しました。

為替が安倍政権の誕生直前から円安に振れ始め、15年以降120円前後で推移しています。1ドル80円前後だった時に比べ、日本のモノが3分の2の価格で買えるわけです。外国人は、戸建てよりマンションを買う傾向が強いことを重ねて考えると、アベノミクスによる円安の動きとマンション価格の上昇が連動していることがうかがえます。為替の動きが最初の補助線、海外からの買いです。

おカネで日本を潤そうとしている日銀政策

もうひとつの補助線が、日銀による金融緩和です。1月末に発表したマイナス金利政策は世間を驚かせましたが、日銀は13年3月に黒田総裁になって以来、「花咲か爺さん」のように日銀券を増刷しています。ETF(指数連動型上場投資信託)や、財務省が発行する国債を直接引き受ける国債買いが目立ちますが、不動産を間接的に買うことになるJ-REIT(不動産投資信託)にも買いが及んでいます。

これにより、13年3月の就任時に146兆円だった日銀の資金供給量(マネタリーベース)は16年2月末で358兆8015億円に増えました。年間80兆円増のペースです。これが不動産の価格押し上げに一定の効果があったのは確かでしょう。

首都圏の中古マンションも16年2月まで上昇傾向

マイナス金利で中古マンション市場はどうなっていくのか?の画像

マンション全体だけでなく、中古マンションについても成約価格、件数とも上昇傾向が16年2月まで続いています。

公益財団法人東日本流通機構(東日本レインズ)が3月10日に発表したデータによると、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の2月度の中古マンション成約件数は、3,539件と5か月連続で前年同期を上回りました。成約単価は前年比で4.7%上昇、成約価格は前年比で4.1%上昇し、これは共に安倍政権誕生翌月から38か月連続で前年同月を上回っています。

成約単価は、全ての地域で前年比上昇し、東京都区部は、12年10月から41か月連続、多摩地区は10か月連続で前年同月を上回りました。

気になるのは、在庫が積み上がっていることです。首都圏の中古マンション在庫は9か月連続で前年同月を上回り、6か月連続で2けた増の4万1,555件でした。新規登録も増え、成約件数が追いつかずダブついてきているのです。

新築マンション市場のかげり

中古マンションの市況は、先行指標として新築マンションの動向を見れば良い、といわれます。その新築マンション価格は確かに上がっていますが、着工戸数は下降の見通しです。

矢野経済研究所が3月17日に明らかにした住宅産業予測では、16年度の分譲マンションの着工戸数は9万2,923戸と、前年度比で83.6%となるマイナス見通しです。これを含めた新設住宅建設着工戸数は83万5,128戸と前年比92.5%の見通し。新築マンションの建設にブレーキがかかっている様相で、これがやがて中古マンション市場に影響を及ぼす可能性があります。

株式会社タスの賃貸住宅市場レポート(資料提供:アットホーム株式会社)によれば、首都圏(1都3県)の空室率は、木造、軽量鉄骨アパートでは15年度に入って如実に増加しており、今後、マンション市場にも波及するかもしれません。

「住まいの買いどき」の認識は、高まっていない

リクルート住まいカンパニーが3月17日に発表した、3か月に1度の、7大都市圏を対象にした生活者の「住まいの買いどき感」調査(15年12月)では、新しい住まいを検討しているかどうかに関わらず「今が買いどき」と感じている人の比率は16.0%でした。

この比率は、前年同月(15.4%)からほぼ横ばいで、14年3月にその3か月前調査から2.9ポイント下がって以来ほとんど変わっておらず、20%を超えていた(13年3月〜9月調査)時に比べ、明らかに「熱」は冷えています。

不動産業向けの銀行貸付はバブル期の水準を超える

日銀統計によれば、銀行の不動産業向け設備資金の新規貸し出しは、15年に10兆6,730億円と、26年ぶりに過去最高となりました。15年末の融資残高も65兆7,102億円となりました。銀行による「個人による貸し家業」に対する融資残高も15年末に21兆562億円に達しています。

都心部を中心とする不動産再開発や、J-REIT、節税目的の新築需要による融資に、余剰マネーの一部が流れ込む構図です。また、民間の研究所による新築マンション市場動向によると、1戸あたりの平均価格はバブル期の1991年を超えたという調査結果も出ています。

マイナス金利の影響で需要は喚起されるのか

日銀のマイナス金利政策の影響により、J-REITには銀行借り入れや社債で、資金をさらに低利で調達できるようになり、投資マネーが一段と不動産市場に向かい始める兆候はあります。日銀が追加緩和を年間100兆円規模で考えている、とも言われ、これを受けて不動産大手やJ-REIT業界では、都心の商業地については今後の地価上昇の可能性がある、と強気ですが、金融庁は、銀行が不動産業やJ・REITへの融資に傾斜しないか、注視し始めたと報道されています。

不動産が、経済の遅行指標(遅れて現れる指標)とよく言われます。

中古マンション市場が、さらなる金融緩和をしても、在庫がさらに積み上がるマンション不況に入ってしまうのか、短期的であれ不動産バブルに入って行くのか、あるいは価格上昇を呑み込んで実体経済として進むのか…。消費税を10%に再引き上げするかどうか、のアベノミクスの政策判断にも影響を及ぼすかもしれない「警戒段階」に中古マンション市場が入ったことは間違いないでしょう。

ご意見、ご要望はこちら

IESHIL編集部オススメ記事

IESHILコラムとは、不動産物件情報に関連してコラム等の関連情報も提供する付随サービスです。
ご利用により、IESHIL利用規約が適用されますので、規約のご確認をお願い致します。