任意売却と競売の違いとは?競売の流れや任意売却の期間について

任意売却をすると、競売よりも多くの残債を返済できて、残ローン額を大きく減らせる可能性が高くなります。ただし任意売却には期限もあるので、早めに不動産会社に相談をして着手しましょう。

更新日:2019年09月11日

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福谷陽子

 ライター 元弁護士

プレミアムライター

弁護士時代から離婚や破産管財など数多くの不動産取引に関わってきた。売買、相続、離婚、任意売却、賃貸借、契約トラブルだけでなく、相続税などの税金関係についても造詣が深い。今はその経験を活かし不動産関係の執筆を行っている。

住宅ローンなどを滞納している場合、任意売却か競売にすべきか迷うケースがあるものです。
一般的には任意売却の方が物件を高く売れる可能性があるので、できるだけ任意売却を進める方が良いでしょう。
今回は任意売却と競売の違い、それぞれのメリットとデメリット、任意売却や競売の流れ、どちらを選択すべきかなどご説明していきます。


任意売却とは

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任意売却とは、不動産のローンがたくさん残っていて「オーバーローン状態」になっているときに、借入先の金融機関の許可を得て不動産を売却する手続きです。オーバーローンとは、不動産の価値が残ローンより低い状態です。売却しても全額のローンを返済できないので、勝手に売られると金融機関に不利益が及びます。
そこで金融機関の許可を取って売却を進める必要があります。 
任意売却では、金融機関の許可さえ取れば、後は普通に不動産会社に仲介を依頼して市場で不動産を売ることができます。


競売とは

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住宅ローンを払えない場合、任意売却しなければいずれは「競売」になります。
競売とは、担保権者や債権者の申立によって不動産が強制的に売却される手続きです。ローンを長期にわたって滞納(通常は半年くらい)していると、借入先の金融機関が「抵当権」にもとづいて裁判所に申立を行い、不動産を競売にかけます。
すると裁判所から自宅宛に通知が来て、家が強制的に売却されます。その場合には、一般の不動産市場ではなく裁判所が関与する特殊な「入札」という手続きによって売却が進められます。


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任意売却と競売の違い

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住宅ローンを払えないときには、任意売却か競売かを選択することとなります。
これらにはどのような違いがあるのか、みてみましょう。

売れる見込み金額

競売の場合、落札価格は一般の不動産市場の7~8割程度の金額になってしまう例が多数です。売却見込み金額は任意売却の方が高額になります。

裁判所が関与するかどうか

任意売却の場合、裁判所とは無関係に債務者と金融機関が共同して不動産を売却できます。競売の場合には裁判所の関与のもとに不動産が強制的に売却されます。 

引っ越し費用が出るかどうか

任意売却の場合、売却代金から30万円程度の引っ越し費用を出してもらえるケースが多数です。競売の場合、引っ越し費用は出ません。 

プライバシーへの影響

競売になると、裁判所の執行官が家にやってきて様子を確認したり、入札を検討する不動産業者が家の周りをうろついて近隣住民に状況を聞いたりするケースがあり、プライバシーがを害されがちです。任意売却では普通に不動産を市場で売却するだけなので、そういった問題はありません。 

債権者に与える印象

競売は、ローンを滞納した結果債権者がやむなく申し立てるものですから、当然金融機関に与える印象は悪くなります。任意売却ではきちんと金融機関の許可を取るので、印象は比較的良好に保たれます。このことは、手続き後の「残債の支払い」の場面で大きな意味を持ってきます。


任意売却のメリット・デメリット

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任意売却のメリットとデメリットを見てみましょう。

メリット

・高く売れやすい

競売より高額で売れる可能性が高くなります。

・プライバシーを守れる

普通に不動産市場で売却をするので、周囲から不審がられることもなくプライバシーを守りやすくなります。

・引っ越し費用を出してもらえる

30万円程度の引っ越し費用が出ると、ずいぶんと楽になるでしょう。

・自宅に住めるケースもある

任意売却によって親戚などに家を買い取ってもらえば、話し合いによってその後も家に住み続けられます。業者に買い取ってもらう場合にも「リースバック」という方法で、賃貸借契約を締結して家に住み続けられる可能性があります。

・残債を分割払いできるケースが多い

任意売却の場合、債権者に与える印象が良いので手続き後に分割払いに応じてもらいやすいメリットがあります。


デメリット

・手続きが面倒

自分で不動産会社に仲介を依頼して、「売主」として手続きを進めていかなければならないので手間がかかります。

・高く売れるとは限らない

任意売却では比較的高額で売れる可能性が高いとはいえ、必ず高値で売れるとは限りません。
人気のない物件では「売れない」可能性すらあります。

・期限がある

任意売却には期限があるので、早めに売却してしまわないと失敗するリスクがあります。


競売のメリット・デメリット

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メリット

・手間がかからない

競売の一番のメリットは、債務者に何の手間もかからないことです。
何もしなくても裁判所と債権者が勝手に売却を進めてくれます。


デメリット

・売却金額が安くなる

競売の場合、どうしても任意売却よりも売却金額が低くなりがちです。
低額でしか売れないと、残債も多く残ってしまうので手続き後の負担が重くなります。

・プライバシーの侵害

競売の場合、裁判所の執行官がやってきて家の様子を確かめたり、不動産会社が近隣をうろうろしたりして、周囲が不穏な雰囲気になりがちです。周囲の住民からも「競売にかかっているらしいよ」などと噂されるケースも少なくありません。
さらに物件内部の写真を撮られて物件情報を全国に公開されるので、プライバシーを守ることは不可能となります。

・引っ越し費用が出ない

競売では引っ越し費用を出してもらえません。
また強制的に家を追い出されるので、自力で早期に引っ越しをする必要があります。

・残債は基本的に一括払いになる

競売になると、金融機関に与える印象は非常に悪くなります。残債についても分割払いの相談に乗ってもらえず一括払いを求められる可能性が高くなります。
基本的には競売より任意売却の方にメリットが多いので、住宅ローンを支払えないならまずは任意売却を目指すことをお勧めします。


任意売却の期限

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任意売却には「期限」があるので要注意です。
期限と言っても「〇ヶ月以内」などではなく、競売との関係での期限です。任意売却をしないと金融機関が競売を進めますが、競売が一定以上進んでしまうと任意売却できなくなります。
具体的には「競売の開札日の前日まで」に売却を完了させなければなりません。開札とは、購入希望者が入札した金額を発表して落札者を決める手続きです。その日を過ぎると競売の取り下げが不可能となり、強制的に家が売却されます。 開札は競売の最終段階で行われるので、競売が開始してから「数ヶ月も余裕がある」と思う方もいますが、現実には開札日の前日に競売を取り下げてもらうのは困難です。任意売却を希望するなら、ローンを滞納後すぐに金融機関と相談をして、手続きを進めなければなりません。


競売の流れ

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競売の流れは、以下のようになります。

1)競売申し立て
金融機関が競売の申立を行います。裁判所から債務者の元に競売開始決定通知が届きます。

2)現況調査
競売開始決定から1~3ヶ月か月後、裁判所の執行官が物件を訪れて現状を確認します。物件内の写真も撮影されます。

3)情報公開
現況調査が行われた後2、3ヶ月か月が経過すると入札期日や開札期日が指定されます。
物件情報が公開され、裁判所やウェブなどで閲覧可能な状態になります。

4)入札
入札期日になると、物件の落札(購入)を希望する人が入札を行います。入札期間は1週間程度です。

5)開札
開札日には、入札額の確認を行い、もっとも高額な金額で入札した人に落札の権利が与えられます。
この開札日の前日までに任意売却を完了させる必要があります。

6)売却許可決定、引き渡しと登記
裁判所で物件の売却許可決定が出て、その後1ヶ月半くらいの間に落札者が競売代金を納付します。
すると物件が落札者に引き渡され、登記が完了します。

競売にかかる期間はケースによっても異なりますが、10ヶ月から1年程度です。
競売が完了するまでは家に住み続けることも可能ですが、どんどん手続きが進んでくるので、早めに引っ越しをしておく方が良いでしょう。


任意売却の流れ

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任意売却の場合の流れは以下の通りです。

1)不動産会社に査定を依頼
まずは不動産会社に物件の査定を依頼します。

2)金融機関の許可を取る
査定書を金融機関に提示して、物件の売却を進めて良いか確認します。許可を得たら売却活動を進めることが可能です。

3)売却活動
不動産会社と不動産売却の媒介契約を締結し、売り出してもらいます。

4)内見や契約交渉
一般の不動産売却のケースと同様、内見の依頼に対応したり購入希望者と契約交渉を行ったりします。

5)売買契約
売買の条件が整ったら不動産売買契約を締結します。手付金の授受を行う場合、債務者が手付金を預かると使い込むおそれがあることから不動産会社預かりにするケースもあります。また任意売却では手付金授受を行わないケースもあります。

6)引っ越し
物件の引き渡し前に、自主的に引っ越しをしましょう。

7)決済と引き渡し、登記
金融機関にて不動産売買の決済を行います。
買主から支払われたお金によって残ローンを返済し、物件の引き渡しや登記をしたら任意売却は終了します。

任意売却にかかる期間は、ケースによって大きく異なります。
すんなり売れて買主がローンを利用しない場合には2、3ヶ月か月で売れるケースもあります。なかなか買い手が見つからない場合や買主のローンが通らずに難航した場合などには半年以上かかるケースもあります。
予想外に任意売却に時間がかかるケースも少なくないので、任意売却を希望するなら早めに活動を開始しましょう。


任意売却を選択すべきケース

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任意売却か競売か迷ったとき、以下のようなケースでは任意売却の選択をお勧めします。


できるだけ多く残債を減らしたい

任意売却すると競売より多く残債を減らせて支払いが楽になりやすいものです。
できるだけ多く残債を減らしたいなら任意売却を選択しましょう。

自己破産を避けたい

任意売却によって残債を減らし、分割払いにしてもらえたら自己破産を避けやすくなります。

引っ越し費用を出してほしい

任意売却すると30万円程度の引っ越し費用を出してもらえて金銭的に少し楽になります。
そういったメリットを期待するなら任意売却を選択しましょう。

プライバシーを守りたい

競売によって物件情報を全国に公開されるのは気分の良いものではありません。プライバシーを守りたいならそういったリスクのない任意売却を選びましょう。

残債は分割払いにしてほしい

オーバーローン物件の場合、任意売却後も残債が残ります。残債を分割払いにしてもらいたいなら、金融機関に良い印象を与えられる任意売却を選択しましょう。

競売を選択しても良いケース

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以下のようなケースでは競売を選択してもかまいません。


最終的に自己破産してもかまわない

残債がたくさん残って最終的に自己破産してもかまわない覚悟があるなら、面倒な任意売却をせず競売に任せてもかまいません。

他にも借金がたくさんあって自己破産せざるを得ない

住宅ローン以外にもたくさんの負債をかかえており自己破産を避けられないなら、任意売却をがんばって残債を減らす意味があまりありません。競売に任せても良いでしょう。


残ローン額が多すぎて自己破産せざるを得ない

物件価値に比べて残ローンの額が多すぎると、任意売却しても自己破産せざるを得ないケースがあります。
その場合には労力をかけて任意売却する意味が少なくなるので競売に任せてもかまわないでしょう。


任意売却で売れそうもない物件

任意売却で売れるのは、市場で需要のある物件のみです。
どうしても売れないなら任意売却は諦めて競売に委ねるしかありません。
ローンを払えないとき、「自己破産したくない」「できるだけプライバシーを守りたい」「平穏に生活したい」と思うなら競売より任意売却を選択しましょう。期間の制限もあるので、できるだけ早めに任意売却を得意とする不動産会社に相談し、専門業者によるアドバイスを受けながら準備を開始することをお勧めします。

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弁護士時代から一般の不動産売買のみならず、離婚や破産管財などを含めて数多くの不動産取引に関わってきた。不動産については売買、相続、離婚、任意売却、賃貸借、契約トラブルなどあらゆる分野に造詣が深い。相続税などの税金関係についても詳しい知識を持っている。今はその経験を活かし、各種メディアにおいて積極的に不動産関係の執筆を行っている。

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