住まいの価格を知る!~マンション購入で知っておきたい住宅価格の構成要素~

人生でも最も大きな買い物とも称されることもある不動産の購入。そんな大きな決断となる不動産の購入・売却において「自分たちの知識は十分なのであろうか…」。そんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。 そこでIESHILコラムでは、国内で唯一ともいわれている不動産学部がある明海大学の不動産学部学部長である中城教授にご協力いただき、「生活者として知っておいて欲しい不動産学」をシリーズにしてお届けしていきます。

更新日:2019年01月15日

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イエシルコラム編集部

株式会社リブセンス

IESHIL編集部

東京・神奈川・千葉・埼玉の中古マンション価格査定サイトIESHIL(イエシル)が運営。 イエシルには宅建士、FPなど有資格者のイエシルアドバイザーが所属。ネットで調べてわからないことも質問できるイエシル査定サービスを展開しています。

はじめに

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近隣のエリアや、同じような間取りであっても価格が異なり販売されているマンション。中古マンションであれば売主の希望販売額等もあるので一概には言えないものの、一生に一度の買い物とも称される住宅の購入。住宅価格の構成要素は明確化したいものです。

不動産特有の価格の設定方法である3つのアプローチ方法に触れながら、購入を検討している物件が適正価格に設定されているのか否かを自己判断ができるように、住宅価格の構成要素について紹介します。

§1 価格の三面性

分譲マンションの価格を形成する要因には、駅から近い、建物が高級、上の階で眺望が良い、新築後の経過時間が少ないなど、様々なものがあります。これらの要素が相互に影響試合ながら価格が形成されるため、明確、かつ、簡便に価格を求めることは容易ではありませんが、三つの側面に区分して考えることができます(価格の三面性)。
 ・第一の側面は、それを造るために必要となるコスト(費用性)です。
  高いコストをかけて造ったものは価値が高く、価格も高いと考えることができます。
 ・第二の側面は、それを使うとどれだけのインカム(収益性)がえられるかです。
  多くの収益が得られるものは価値が高く、価格も高いと考えることができます。
 ・第三の側面は、同等のものがマーケット(市場性)でどのくらいの価格で取引されているかです。
  取引されたマンションと比較して価値が高ければ、その分価格が高いと考えることができます。

不動産の価格を求める場合は、価格の三面性に対応する三つの手法を用いて計算します(図1)。
 ・費用性に着目して求める方法をコスト・アプローチといい、造る費用を重視することより、供給者サイドの価格ということができます。この求めた価格を積算価格といいます。
 ・ 収益性に着目して求める方法をインカム・アプローチといい、使うことによる利益を重視することより、需要者サイドの価格ということができます。この求めた価格を収益価格といいます。
 ・ 市場性に着目して求める方法をマーケット・アプローチといい、両者が交渉して成立する取引価格を重視することより、需給均衡の価格ということができます。この求めた価格を比準価格といいます。
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§2 コスト・アプローチで重要となる価格形成要因

分譲マンションの価格をコスト・アプローチで求める具体的な例として、新築し分譲する際の価格評価があります。マンションディベロッパーが土地を購入して建物を新築して分譲する際に、各住戸の価格をいくらにするか検討するケースが該当します。

この際の価格形成要因は、大別して土地の価格、建物の価格、開発事業者の経費と利益で、それぞれ更に多くの価格形成要因で価格が構成されます。それらの解説は別の機会に譲りますが、土地の価格については、地価公示の価格を指標とする方法、相続税の路線価から推測する方法によって概算することができます。

地価公示の価格は国土交通省のホームページ1)で確認することができます。地価公示の価格は土地取引の際の指標とすることを目的に開示されている土地価格情報です。信頼性の高い価格で、全国で26,000箇所の価格が開示されますが、それ以外の土地の価格を直接知ることはできません。地域の価格水準を知る方法として利用します。相続税の路線価は国税庁のホームページ2)で確認することができます。市街地の道路について地価公示価格、いいかえると、取引の指標となる価格の80%に相当する価格が開示されています。したがって、路線価を0.8で割ることで地価公示価格相当額を概算することができます。実際の土地価格は、形状や接道状況なども影響されるため、概算した値に加減が必要となりますが、個別の土地のより具体的な価格水準を把握することができます。

建築費は一般的な価格水準を基本に、階高、内外装の仕上げ、エントランス等の共用空間の程度、自家発電等の共用設備の程度などによって加減します。一般的な建築費は関連書籍のほかインターネットで把握することも可能です。開発事業者の経費と利益については立地や金利動向などのほか、開発の規模や企業の経営方針にも影響されます。

マンションの価格は階や向き(位置)によっても影響されます。以下ではモデルケースを設定したうえで階や向き、さらには専有面積の違いを考慮し、コスト・アプローチによって住戸の価格を求めます。モデルケースの概要は以下のとおりです。

1)
総事業費
表1のとおり600,000千円とします。
2)専有面積
表3のとおり、各階に65平米(01号室;南西の角)、75平米(02号室;中間)、85平米(03号室;南東の角)の3住戸がある、4階建てを想定します。住戸数は12戸で、平均専有面積は75平米です。
3)各住戸の価格

マンションの価格は階によって異なります。どの程度異なるかは場所やつくり方によって異なりますが、階ごとの価格の差(単位面積(1
平米または1坪)あたり)を指数化したものを階層別効用比率といいます。階層別効用比率は周辺の分譲マンションの販売価格を参考に求めますが、ここでは簡単のために、1階を基準(100)として、1階高くなるごとに1高くなるものとします(表2)。
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マンションの価格は同じ階でも向き(位置)によっても異なります。同じ階の住戸のうち、基準となる住戸を基準(100)として、各住戸の向き(位置)の違いによる価値の違いを指数化したものを位置別効用比率といいます。モデルでは中間の住戸の02号室を100として、南西の角にある01号室の位置別効用比率を105、南東の角にある03号室を108とします(表2)。

各住戸の価値は階層別効用比率と位置別効用比率の積として把握することができます。また、住戸の価格は専有面積とも関係します。階層別効用比率×位置別効用比率×専有面積で求めた値を階層別位置別効用積数といい(表4)、階層別位置別効用積数の合計(全体)を1(100.00%)とした場合に、各住戸の積数の割合を示すものを階層別位置別効用積数割合といいます(表5)。この割合が各住戸の価値が全体の価値に占める割合を示していますので、総事業費(600,000千円)をこの割合で割り振ったものが各住戸の価格となります(表6)。
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新築分譲マンションの価格表を入手すると住戸ごとの専有面積と販売額が記載されています。価格表から分譲単価を求め、これをもとに階層別効用比率と位置別効用比率を把握します。同様に、近隣の類似のマンションの比率を把握して比較することによって、購入しようとする部屋の価格の適切さを判断することができます。中古のマンションの場合は、経過年数と残存耐用年数をもとに一定の減価が必要となりますが、耐用年数到来時点でも土地価格は残ると考えられますので、建物価格について減価することが基本となります。

この方法で計算してみることで、マンション全体の価格のバランスを知ることができます。

§3 インカム・アプローチで重要となる価格形成要因

分譲マンションは自分で住むために購入することが一般ですので、インカム・アプローチによって収益価格を求めることは実態とは合いませんが、賃貸することを想定して収益価格を求めることは可能です。また、将来売却する際は、「少なくても収益価格では売却できる」という側面があります。

収益価格は、将来得ることができる家賃収入から管理費等の必要経費を引いて手取り額(純収益)を求め、それをもとに収益還元式を使って計算します。収益還元式にはいろいろの種類がありますが、分譲マンションの収益価格Pを求める場合は、【1式】が相応しいといえます。
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やや難解ですが、1年間の平均的な家賃収入の手取り額(純収益)をa円とし、建物の残存耐用年数をn年、将来収益の割引率をr%としています。残存耐用年数n年と割引率r%から求める右辺第2項をa円に乗じて求めますが、この係数を例示すると表7のとおりです。なお、この係数のことを複利年金現価率といいます。

割引率を3%、1年間の純収益が1,000千円としてそれが20年続くとすると、1,000千円×14.88=14,880千円、40年続くとすると、1,000千円×23.11=23,110千円となります。建物の残存耐用年数が長くなれば価格は高くなりますが、単純に年数をかければよいというわけではありません。

割引率はその不動産に期待できる利回りを元に決定します。ローリスク・ローリターンですので、地域が発展している、階高が高く外装が高級で稀少性が高いマンションであるなど、家賃が高くなると思われる場合(ローリスク)は割引率は低くなり(ローリターン)、逆の場合は割引率を高く設定します。

残存耐用年数が長い、地域の発展が期待できる、建物の競争力がある、賃貸することが容易などが価格を高くする要因です。
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§4 マーケット・アプローチで重要となる価格形成要因

周辺で実際に取引されているマンションの価格と比較する方法で、もっとも馴染みがあるといえます。比較する要因としては、立地、建物全体、および、評価しようとする専有部分の状態です。

立地については駅からの距離や交通の利便性、周辺の環境、道路の状況などです。建物全体については階高、内外装の仕上げ、エントランスホールやエレベーターなどの共用部分や共用施設、耐震性能、新築後の経過年数、維持修繕の状況などです。専有部分の状態とはマンション内の階層や開口面の方位、内装や設備の状況などです。

多くの要素が重なって価格が形成されますので、正確に計算することは容易ではありませんが、多くの取引事例価格を入手して比較することを通じて、おおよその価格差を知ることができます。また、一般に不動産業者はこの方法で価格を試算していますので、客観的な立場の不動産業者にアドバイスをもらうことも考えられます。

この方法を少しでも正確に計算するために開発された方法にヘドニック・アプローチといわれる方法があります。駅からの距離の違いによる価格差や経過年数による価格差など、価格形成要因と価格の関係を数量で把握するものですが、全国どこでも利用できる統一的な計算式があるわけではありません。また、相当数のデータを収集する必要があります。

おわりに

住宅価格の構成要素を設定する方法は3つあり、それぞれ
マンション全体の価格のバランスを知ることができるコスト・アプローチ
賃貸することを想定した収益価格を求めることができるインカム・アプローチ
多くの取引事例価格からおおよその価格差を知ることができるマーケット・アプローチ
という使い分けがありました。

分譲マンションの購入を検討する際には、購入を検討している物件が適正価格に設定されているのか否かを自己判断ができるように、住宅価格の構成要素ついて正しく把握することが大切です。
【補注】
1) 参考文献1による
2) 参考文献2による

【参考文献】
1. 国土交通省地価公示・都道府県地価調査
  http://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=2&TYP=0
2. 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表
  http://www.rosenka.nta.go.jp/

この記事の執筆者

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明海大学 不動産学部 教授
学部長 中城 康彦氏

【専攻分野】
不動産企画経営管理、不動産鑑定評価、建築設計、不動産流通

【経歴】
1979年 福手健夫建築都市計画事務所
1983年 財団法人 日本不動産研究所
1988年 VARNZ AMERICA, Inc.
1992年 株式会社 スペースフロンティア 代表取締役
1996年 明海大学 不動産学部 専任講師
2003年 明海大学 不動産学部 教授
2004年 ケンブリッジ大学土地経済学部客員研究員(2005年3月まで)
2012年4月 明海大学 不動産学部長 不動産学研究科長

【主な受賞歴】
2015年 都市住宅学会論文賞
2015年 資産評価政策学会論説賞
2016年・2014年・2013年 日本不動産学会論説賞

この記事の問い合わせ:nakajo@meikai.ac.jp
明海大学HP:http://www.meikai.ac.jp/

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