マンションを購入時の契約の知識は大丈夫?覚えておきたい契約・重要事項説明のこと

人生でも最も大きな買い物とも称されることもある不動産の購入。そんな大きな決断となる不動産の購入・売却において「自分たちの知識は十分なのであろうか…」。そんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。 そこでIESHILコラムでは、国内で唯一ともいわれている不動産学部がある明海大学の不動産学部学部長である中城教授にご協力いただき、「生活者として知っておいて欲しい不動産学」をシリーズにしてお届けしていきます。

更新日:2018年09月21日

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イエシルコラム編集部

株式会社リブセンス

IESHIL編集部

東京・神奈川・千葉・埼玉の中古マンション価格査定サイトIESHIL(イエシル)が運営。 イエシルには宅建士、FPなど有資格者のイエシルアドバイザーが所属。ネットで調べてわからないことも質問できるイエシル査定サービスを展開しています。

はじめに

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購入しようとする住戸とその売買条件がおおよそ決定した後の手続きは、①重要事項説明を受ける②契約する③37条書面の交付を受ける、の順に進んでいきます。

この手続くは、売買契約のもっとも重要な部分ともいえるでしょう。悔いを残さないためには、この手続きにむけて相応の準備をし、「自分の希望に沿った内容となっている」か、冷静に判断できるだけの知識を持つことがポイントです。また、意外としられていませんが必要に応じて修正要求することも可能です。今回は中古マンションを購入するケースを念頭に取引の仕組みを解説します。
買い時判断やあなたに合った物件の見つけ方、業界の仕組みまで、中古マンションの購入・売却のノウハウを徹底紹介。不動産会社ではなく、あなたのためのアドバイザーとして、中立的な立場からマンション購入のポイントをアドバイスします。
 

§1-① 重要事項説明とは

まず、最初のステップである重要事項説明とは、売買しようとする住戸の物的側面のみならず、土地や建物にかかる行政的な規制、代金の支払いにかかる経済的な側面、締結しようとする契約の法律的な側面など、売買に関する重要な事項について、宅地建物取引業者が作成した書面にもとづいて宅地建物取引士から説明を受けるものです。

いわば、これから結ぼうとする契約内容の最終確認ともいいかえることができます。

§1-② 契約とは

契約が大切なことは言うまでもありませんが、契約については「法律の規定」と「取引実務」、さらには、売買当事者の理解が必ずしも一致しないことに留意します。

実は意外に知られていないことだと思うのですが、民法では契約は当事者の合意によって成立すると規定し、契約書の作成は義務ではありません。例えば、八百屋でキャベツを買う場合を想像してみてください。その都度契約書を作成する必要があるとすると、自由で活発な経済活動が阻害されることを考えれば、この規定は妥当なものです。

一方、今日の不動産売買で契約書を作成しないことはまずないでしょう。口約束だけで契約すると、あとになって、「そんなはずではなかった」、「約束と違う」といったトラブルが発生しかねません。そのため合意内容を契約書にします。契約書を作成するのは売主と買主、つまり、契約の両当事者になるというわけです。

しかし、一般の消費者は売買契約書を合理的・合法的に作成するために必要な知識をもたないことが多いでしょう。そのため実際には、媒介を依頼した宅地建物取引業者が売買契約書の作成を支援します。消費者にとってはありがたいことですが、半面、契約をしているのは自分であるという当事者意識が希薄になりがちです。
あくまで、契約書は当事者である自分が作成するものだということを意識しておくといいでしょう。



§1-③ 37条書面とは

37条書面とは、法律が必ずしも契約書を作成することを義務付けていないことを補完する制度です。37条書面は契約当事者の合意内容を宅地建物取引業者が書面にして両当事者に配布することを義務付ける制度です。これによって、契約当事者が契約書を作成しない場合でも、契約内容を書面化したものが残ることになります。
しかし、実際には前述した通り多くの場合は宅地建物取引業者が支援して契約書を作成します。また、契約書が37条で求められる事項を網羅している場合は、契約書をもって37条書面に代えることが認められており、実務ではこの方式が採用されていることがほとんどです。


§1-④ 各々の特徴と留意点をまとめ

上記に述べた「重要事項説明」「契約」「37条書面」各々の性質を理解し、留意すべき点を知識としていれておくことは重要です。改めてここで留意すべき点を述べておきましょう。

(1)    重要事項説明重要事項説明は法律で説明すべき項目を規定することで売買の安全を図る半面、買主が知りたい項目を網羅されているとは限りません。事前に重要事項説明の項目を勉強したうえで、自分が知りたい項目でこれに含まれないものがないかチェックしておくことが大切です。

(2)    契約契約書売買の両当事者の合意を存分に記載することができます。契約書に盛り込みたい内容を宅地建物取引業者のサポートを受けながら、もれなく文書化しましょう。契約書を作成するのは自分たちであることを忘れずに。

(3)    37条書面37条書面は、契約書の代わりになる性質があり、また、記載しなければならない項目が規定されているからといって、過度に依存することは適切ではありません。重要事項説明と同様、37条書面の項目が、自分たちが取り決めたい内容が網羅しているとは限りません。

この通り、「重要事項説」と「37条書面」では、記載されるべき項目が規定されていることがわかります。次は実際に各々の記載項目に関して、見ていきましょう。
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§2 重要事項の説明項目と37条書面の記載項目

重要事項説明の説明項目を表1に、37条書面の記載項目を表2に取りまとめました。重要事項説明書の書き方は参考資料1※が詳しいので、マンションを購入する場合は区分所有建物の記載例をみて予備知識を高めると効果的です。

※参考資料をclickすると、資料がPDF形式でDLされます。

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表1 重要事項説明で説明される項目(売買の場合)注:参考資料1をもとに作成

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表2 37条書面で記載される項目(売買の場合)

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§3 重要事項説明と契約書で特に留意すべき点

§3-1区分所有法制定前のマンション

区分所有法は1962(昭和37)年に制定された法律です。それ以前に民法の規定にもとづいて販売されていた分譲マンションの矛盾点を区分所有法が整理した側面があります。区分所有法制定前の中古マンションを買う場合は、表1の4)①②に特に注意が必要です。

§3-2旧耐震基準のマンション

現在の耐震基準は1981(昭和56)年6月1日以降の建築確認で適用されているもので一般的に新耐震基準といい、それ以前のものを旧耐震基準といいます。旧耐震基準の中古マンションを買う場合は、表1の1)11に特に注意が必要です。

§3-3建物状況調査

2018(平成30)年4月1日に施行された宅地建物取引業法の改正で新たに規定されたものです。既存の建物を安心して売買できるよう、研修をうけた建築の専門家が建物状況調査(インスペクション)を行い、その結果を重要事項として説明することになりました。

ただし、調査は任意で、売主が行うことも、買主が行うこともできます。買主としてインスペクションを希望する場合は、宅地建物取引業者と媒介契約(物件の仲介を依頼する契約)を結ぶ場合に、その旨を申し出ましょう。宅地建物取引業者は媒介契約時にインスペクションについて説明することになっています(表1の1)6の上段)。また、インスペクションの結果等について売買当事者が確認したことを37条書面で明示することになりました(表2の3))。


§3-4瑕疵担保保険

売主の瑕疵担保責任が確実に履行できるよう、保険に入る制度です。義務ではありませんが、瑕疵があることが懸念される、売り主に担保責任を果たす資力がない可能性がある、などの場合に付保することが考えられます。中古住宅の場合は、上記3)の建物状況調査の結果、問題がない場合など一定の条件が必要となります(表1の2)7、表2の12))

§3-5設計図書、点検記録等の保存

2018(平成30)年4月1日に施行された宅地建物取引業法の改正で新たに規定されたものです。中古住宅を安心して取引するためには、新築時の設計図書やその後の点検やリフォームの状況などの実績を示す資料があることも重要です。今年の4月以降は、売主がこれらの資料を保存しているか確認します。保存している場合はそれを引き継ぐことが基本となります(表1の1)の6下段)。

§3-6金銭の貸借(ローン)のあっせん

住宅を購入する際には、ローンが必要なことが殆どでしょう。ローンが付かなければ売買代金を支払うことはできませんので、重要事項で説明し(表1の2)の6)、37条書面(契約書)でも記載します(表2の10))。

宅地建物取引業者が金融機関に買主候補者の状況を伝えてローンが可能という感触を得た段階で、ローンが付くことを前提に売買契約を結びます。このような場合、金融機関の審査結果が不可の場合は契約解除できる特約を契約書にもりこむことも少なくありません。現実問題として、ローン特約解除に該当するか争いになることもありますので、参考資料1のp13のように銀行名、金額、金利など、どの銀行のどのローンか特定できるように記述することが大切です。

§3-7契約の解除

どのようなケースで契約解除できるかは当事者が決めることになります。代表的な、そして、約定することが望ましいケースについて参考資料1のp12に記載があります(上記6)についても「融資利用の特約による解除」として記載されています)ので参考にしてください(表1の2)の2)、表2の8))。また、表2の11)については「引渡し前の滅失又は毀損等の場合の解除」として、契約してから引渡しまでの間に天災等があった場合は、契約解除できる特約をするケースを紹介しています(特約がない場合は、建物が滅失しても買主は代金を支払う必要があります!)。

§3-8区分所有建物の場合

表1の4)に記載された①から⑨は中古マンションを買う場合には重要な内容です。大規模修繕が終わったばかりのマンションは価値が高い一方(⑨)、計画修繕積立金の残額は少ない(⑥)など、相互に関係する項目もあります。ベランダは共用部分ですが、隣接する専有部分の区分所有者が(無料の)専用使用権にもとづいて専用使用することが一般的です(③)。

区分所有建物は一棟の中に複数の所有者がおり、管理組合を組織してみんなで維持管理していくことになりますので、重要事項で説明される内容とは別に管理組合の活動状況や建物の管理状況を現地で確認することも大切です。

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おわりに

マンションを購入するなら避けては通れない取引に関する事項。契約の当事者は紛れもなく自分自身であるということを念頭にいれ、事前に今回ご紹介したような留意点に対し知識をいれておくことは非常に有効でしょう。

【参考資料】
1.    一般財団法人 不動産適正取引推進機構 
  http://www.retio.or.jp/info/pdf/important_matter_manual.pdf
2.    国土交通省      
      http://www.mlit.go.jp/common/001037688.pdf

この記事の執筆者

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明海大学 不動産学部 教授 
学部長 中城 康彦氏

【専攻分野】
不動産企画経営管理、不動産鑑定評価、建築設計、不動産流通

【経歴】
1979年 福手健夫建築都市計画事務所
1983年 財団法人 日本不動産研究所
1988年 VARNZ AMERICA, Inc.
1992年 株式会社 スペースフロンティア 代表取締役
1996年   明海大学 不動産学部 専任講師
2003年 明海大学 不動産学部 教授
2004年   ケンブリッジ大学土地経済学部客員研究員(2005年3月まで)
2012年4月 明海大学 不動産学部長 不動産学研究科長

【主な受賞歴】
2015年 都市住宅学会論文賞
2015年 資産評価政策学会論説賞
2016年・2014年・2013年 日本不動産学会論説賞

この記事の問い合わせ: nakajo@meikai.ac.jp

明海大学HP: http://www.meikai.ac.jp/

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