離婚者たちのマンション”あとしまつ”問題 『リマン(離婚+マンション)ショック』の傾向と対策

30%以上のカップルが離婚を経験するといわれる大離婚時代。 離婚時に頭を悩ませるのが、購入したマンションに関するアレコレですが、離婚+マンションにまつわる様々なエピソードをご紹介していく企画シリーズです。

更新日:2017年02月07日

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イエシルコラム編集部

株式会社リブセンス

IESHIL編集部

東京・神奈川・千葉・埼玉の中古マンション価格査定サイトIESHIL(イエシル)が運営。 イエシルには宅建士、FPなど有資格者のイエシルアドバイザーが所属。ネットで調べてわからないことも質問できるイエシル査定サービスを展開しています。

今や30%以上のカップルが、離婚を経験するといわれる大離婚時代。離婚時に頭を悩ませるのが、購入したマンションに関する、アレコレです。

「どちらが住むのか」「ローンはどうする?」「共同名義をどう変える」――。

山積する“離婚×マンション”の悩みごとを、イエシルでは「リマン(離婚×マンション)ショック」と名付けました。

「明日はわが身…」と震える結婚17年目、住宅ローンあと10年以上のライター・モモセ氏が、そんなリマンショックに備えて、知恵と勇気を身に着けていくのが、このコーナー。
「リマンショック」で起こりがちな元夫婦たちの悩み事をケーススタディに、その傾向と対策を、「離婚と住宅ローン相談室」を運営する行政書士・川上俊明先生に伺います。

いま幸せなあなたも、「もうそろそろ」と考えているあなたも。
離婚を視野にいれた、賢いマンション売買術を、学んでいきましょう!

◆今回の「離婚×マンション」ケース Fさんご夫妻

結婚して5年、Fさん夫婦の仲は冷え切っていた。
ひと言でいえば「性格の不一致」。仕事と趣味に没頭するご主人と、家庭を第一に、早く子供が欲しかった奥さんの心と時間のすれ違いが何年か続いた。

結局、20代後半と若かった2人は、あっさり離婚を決めた。
問題は結婚3年目に購入した神奈川県内のマンションをどうするか、だ。

当然ながら住宅ローンの返済は終わらず、まだ30年も続く。といっても、離婚後、夫婦ともにその場所に住む気はない。
「だったら、マンションを売却しよう」と合意。売却すれば残りのローンを全額返済できると思っていたのだが、さにあらず。

近くの不動産屋に査定を依頼したところ、買い値を大きく下回る見積もり額しかあがってこなかった――

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――いやあ、川上先生。Fさん夫妻、いや、元夫妻のようなケースって多いのでしょうか? 

川上:多いですね。理想はいうまでもなく「マンションを売って得た売却益で、ローンを完済させる」というストーリー。あとくされなく夫婦関係もローンも解消できる。
しかし、マンションを売却したお金を全部つぎ込んでもローンを完済できそうにない…というのはままあります。まあ、離婚がきっかけでなくてもよくある問題ですが、離婚の場合は「残ったローンは夫婦のどちらが、どれだけ払うのか?」といった問題もついてまわりますからね。そこが問題なんですよね。

――なるほど。せっかく、夫婦そろって最初から「売ってしまおう」と同意しているのに、その件でモメちゃいそうですよね。

川上:その通りです。たとえば旦那さんが「マンションは売ってしまおう!」と主張しても、「子供の学校のこともあるし、私はここに住み続けたい!」などと、お二人の方向性があわず、モメるケースもまた多いですからね。しかし、売ろうと思っても、ローンだけが残るというのは、せっかく揃っていた足並みがまたおかしくなる、ということですからね。

――まあ、離婚する時点で足並み揃ってないんでしょうけどね(苦笑)。ちなみに、売却したらものすごく高く売れて、ローン完済はもちろん、プラスの利益まで出たら二人はそのお金を山分けする感じでいいんですかね?

川上:それはもうベストなストーリーですね。たとえば、ローンの残額が2000万円、マンションの資産価値が3000万円で、差し引き1000万円のプラスだったとしましょう。この1000万円は夫婦の「財産分与」の対象となるんですよ。

――財産分与とは?

川上: 財産分与とは、結婚期間中に夫婦の協力によって築いた財産を二人で分配すること。
不動産もその財産のひとつで、夫、妻どちらか一方の名義であったり、夫だけが働き妻は専業主婦だったとしても、二人の協力で築き上げたといえる財産であれば、持ち分に関係なく基本は折半なんです。すなわち1000万円を500万円ずつ分け合うことになるんですよ。

――ああ、それは本当にベストですねえ。まあ、残念ながら今回は「見積もり査定をしたら、どうもそれどころからローンも返せない…」という真逆のケースですけども。解決策ってあるんですかね?

川上:ケースバイケースですけどね。たとえば、売却して得たお金が、多少、ローン残額に不足していたとしても、貯金などで補える範囲であればそれほど問題になりません。具体的には、ローン残額が2000万円に対し、売却額は1500万円しか見込めないと。それでも手持ち資金が500万円あったら、売却後の残債をそのお金で一括完済できますよね。

――そうか。それはそうですね。では貯金などの手持ち資金がなかったなら?

川上:大きく二つに別れるでしょう。
まずは「売却をあきらめる」。ただこれはさきほど申したように、ローンの返済が続くし、どちらがどれくらい払うのか、話し合いに時間がかかる可能性が高いですね。そしてもう一つが「任意売却」というものもあります。

――任意売却ってなんですか?

川上:任意売却とは、競売などの法的手段によらずに、第三者に不動産を売却する方法です。
離婚などのさまざまな事情でローンが払えなくなった場合、通常、銀行は担保の不動産を差し押さえた上で、不動産の競売を申し立てることになります。任意売却はその前にとられる救済措置的な売却手段といえますね。ただ、この任意売却を実行するには、銀行に「抵当権」を解除してもらうことが大前提です。

――ん? 「抵当権」というのは何でしたっけ?

川上:抵当権とは、簡単にいえば「貸したお金を返してもらえないときに、不動産を取り上げることが出来る権利」ですね。
多くの人は、銀行の融資を利用してマイホームを購入しますよね。銀行はその融資の担保として、購入した不動産に抵当権を設定するわけです。Fさん夫婦のケースのように、自宅売却後もローンを完済できない状態だと、銀行の抵当権は残ったままになります。そしてこの抵当権は、第三者に不動産を売却しても、その不動産から離れません。
つまり、抵当権が残ったままの不動産は、他人の借金がくっついているのと同様です。他人がいつまでも借金を返さなければ、銀行が怒って競売にかけちゃうなんてこともあり得ます。

―― 他人の借金のせいで自宅マンションが競売にかけられちゃう? それはいやですね。

川上:ですから、買い手はみつからないと思ったほうがいい。
なので、任意売却の際には、銀行に抵当権を解除してもらうことが必要不可欠となるのです。

――ほほう。で、銀行は抵当権をすんなりはずしてくれる?

川上抵当権を解除してもらうには、ローン残額を全額返済することが原則です。それができない場合は、銀行と相談して、返済しきれないローンを残したままで抵当権を解除してもらうようお願いします。
皆さん、「銀行がOKしないのでは…」と考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。銀行によっては、競売での売却を嫌って抵当権の解除に応じてくれるところもあります。競売だと手間や時間がかかるのに加え、市場価格より安い値段でしか売れないことがほとんど。それなら任意売却を選んだほうが、資金をスムーズかつ多く回収できると考えるケースも多いからです。
一方、Fさん夫婦にしても、任意売却ができれば、得たお金でローン残額の一部でも返済に回せるので願ったり叶ったり。双方にメリットがあるので、話し合いによって抵当権を解除してもらえる可能性はありますよ。

――なるほど。そう考えてみると、任意売却いいじゃなですか!

川上:ただし本来、任意売却は所得が下がった、失業したといった、ローンを払いたくても払えない人たちが対象です。Fさんたちのように給与が変わらない人に適用されるかは微妙なところ。プラス任意売却には、大きなデメリットも潜んでいる。それがネックとなるため、実は僕は、安易な任意売却をおススメしていません。

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――デメリットとは?

川上:いわゆる銀行のブラックリストに載ることです。
ローンの一部をチャラにする任意売却にするためには、数か月のローンの「滞納」が発生していることが条件。そもそもリストラされた時などの救済策だから当然ですね。だから、銀行の個人信用情報に「事故歴」が残ってしまうのです。
それによって任意売却後、新たなローンを組んだり、借り入れをするのが難しくなることが予想されます。何年後かに、新しい家族とローンを組もうとしたときに、審査が通らないということになりかねません。また、ご自身で商売をされていて、そちらで運転資金を借りている方などは、その借り入れへの影響も心配です。

――ああ、それは負の遺産ですねえ。ではもうFさんたちの場合、売却はあきらめたほうがいいんですかね。

川上:まあ、簡単には言えませんが、ひとつの不動産会社でしか見積もりをとられていないようなので、複数社に打診するという手はありますね。一括査定サイトもあるし、イエシルみたいなのものを活用するのももちろんいい。
不動産会社によって仲介を得意とする地域は違うので、不動産の資産価値の判定は業者によって大きな開きがあるようです。信頼の置ける業者にお願いするのが大前提ですが、ローン残額の返済メドがたつ値がつく可能性はまだ捨てなくていいと思いますよ。

――なるほど。まだチャンスはあると。それでもやはり大した値がつかなそうだったら?

川上:売却はあきらめる方向でしょうね。
離婚後、二人ともマイホームに住む気がないのであれば、第三者に賃貸として貸し出し、その家賃収入でローンを返済していくという手もあります。任意売却はあくまで最終手段にすべきでしょう。

――そもそもこうした「いざ離婚した」というときに売れずにこまらないように、事前予防策としてできることってあるんでしょうかね?

マンションの購入時に資産価値の変動まで考えて選んでいたら、売却査定でローン残額を上回ってプラスになっていたかもしれません。
また、頭金を多めに入れてローンを組んでいたら、売却益+手持ち資金で全額返済が叶っていたかもしれません。離婚に限らず、売却を検討しなければならない事態は突然訪れるもの。その時も見据えたマンション選びが必要不可欠なのではないでしょうか。

――そうですねえ。まあ、結婚そのものも、よくよく検討してから決めたほうが良かったのかもしれませんよねえ(自分を振り返りながら…)。

◆結論

まずは別の機関でマンションの資産価値を査定してみる。
結果、ローン残額を上回る見積もりだったら売却、大きく下回る見積もりだったら第三者に貸し出すことも検討すべし!

★川上先生プロフィール★
離婚と住宅ローンの問題を専門とする行政書士川上俊明
行政書士。オフィスシード代表。1974年生まれ。北海道出身。私立北海学園大学人文学部卒。合格率2.62%という超難関試験であった、平成17年度の行政書士試験に一発合格。資格取得後は、有名行政書士の元で、行政書士業務について徹底的に学び、現在は代表としてコンサルティング、実務を一手に引き受ける。離婚と住宅ローンの問題を専門とし、不動産、お金、子どものことなど幅広く相談に応じて精神的にもサポートを行う。「離婚と住宅ローン相談室」http://asu1.net/

★ライタープロフィール★

モモセコウジ
ビジネス、金融、不動産分野を中心に、雑誌や書籍、ネットメディアで取材・執筆を行う。ライター歴20年。

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