人が生活する上でなくてはならないもの、それが「住まい」です。この住まいをめぐって度々論争となるのが、「買うのと借りるのと、どちらがおトク」という問題です。住まいを「買う」のか、または「借りる」のかによって、どのような違いが生まれ、そしてどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。この永遠のテーマとも言うべき「買う」と「借りる」について、検証します。
借りること、つまり賃貸に住むということは、その住宅が自分のものにはならないものの、エアコンや給湯器などの設備が故障した場合は、大家さんの費用負担によって直してもらうことができます。これが、買った場合との大きな違いです。また、借りた場合は契約書に記載のある退去予告期間を守って退去する旨を伝えれば、簡単に住み替えることが可能です。
つまり、「借りる」は「買う」に比べて非常に身軽なのです。
また、住み替えにかかる費用も「買う」に比べるとはるかに安く、かつ簡単にできるため、転勤が多い方などには「借りる」ほうがよいと言えるかもしれません。とここまでは、一般的によく言われている内容です。
ここから先は、他ではあまり触れられていない異なった視点から解説したいと思います。
住宅を購入した場合は自分のモノになりますから、住宅ローンの返済さえ終われば、一生その場所に住み続けることが可能です。では、賃貸の場合はどうでしょう。
賃貸の場合でも、居住者が希望すれば、生涯にわたって住み続けることができるかのように思われますが、実際はそうとは限らないのです。実は、「借りる」にはあまり知られていない大きな落とし穴があるのです。
例えば、賃貸で借りているアパートが老朽化によって取り壊しになったとします。借りていたあなたは次の住まいを自分で探さなければなりません。この際に問題となるのが、借りる側の「年齢」です。賃貸を借りる際には、必ず「入居審査」というものがあります。若い働き盛りのうちはそれなりに収入も多いため、よほど高い家賃の物件でもない限り、一般的な会社員が入居審査に落ちることはそうそうありません。
けれども、50歳を過ぎた当たりから、入居の申し込みをしても、そう簡単に借りることができなくなります。なぜなら、大家側が高齢者の入居を嫌う傾向にあるからです。特に、高齢者の独り暮らしには大家としても不安が多いため、いくら年収や貯金があっても貸してもらえない場合があるのです。賃貸の空室が多い過疎地域であれば、高齢者でも比較的貸してもらいやすい傾向にありますが、東京都心部などの若者が多い地域では、大家があえて高齢者に貸したがらないという現実があります。
事実、東京都心部で賃貸暮らしをしている高齢の方で引っ越さなければならない場合、なかなか部屋を貸してもらえず、次の部屋探しに苦労するといった事態が発生し始めています。
現在の日本は、急激な高齢化の一途をたどっているため、今後も高齢者の数は増えていきます。さらに内閣府の調査によると、日本の未婚率は1980年ごろから上昇の一途をたどっています。つまり、今後の日本は「未婚の高齢者(単身者)の数が大幅に増える」ことになるのです。そうなったときに、「借りる」を選択して人生設計してきた方は、何らかの事情で住まいを退去しなければならなくなったときに、次に借りる先が簡単に見つからない恐れがあります。これは、「買う」を選択した場合には発生しない「借りる」特有の大きなリスクです。
一般的に「買う」と「借りる」を比べた場合、収支の問題や税金の問題を取り上げるケースが多いのですが、実は問題の本質はそこではなく、老後のライフスタイル全体に関わっているのです。自分としては、いつまで、どこに住みたいと考えているのか、その明確なビジョンがなければ、どちらがトクとは言えないのです。
要するに、自分自身が生涯住み慣れた自宅で過ごしたいのか、それともある時期になったら老人ホームや介護施設に入る予定なのかによっても、変わってくるということです。
<執筆者>
棚田 健大郎(棚田行政書士リーガル法務事務所 代表)
株式会社エイブルに入社。全国約3,000人の社員中、月間仲介手数料の売り上げでトップセールスを記録。管理職として数年勤務後、退社。 行政書士、マンション管理士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得し、棚田行政書士リーガル法務事務所を設立。不動産、相続、企業法務に強い行政書士として活躍。IESHILコラムとは、不動産物件情報に関連してコラム等の関連情報も提供する付随サービスです。
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