インターネットでの個人取引が大きな市場になった今日、ネットを通じての不動産売買も比較的簡単にできるようになりました。個人が自分の所有する不動産を登録して売りに出せるサイトもありますし、ポータルサイトと提携した「ネット不動産会社」とも言える会社も生まれてきています。
もし、インターネット上で取引を完結できるのであれば、仲介会社に「媒介手数料」を支払う必要もありませんし、いろいろな人と会う面倒も少なくて済むかもしれません。
しかし、不動産の売買において、ネットだけで、お互いに相手がどんな人物なのかという情報を十分に得られない中、本当に安全でスムーズな取引ができるのでしょうか? 実際、取引の間に立つ不動産会社の存在を望む声は今も多くあります。ここでは、中古マンションの売買を例にしながら考えてみましょう。
最初は、「物件の価格査定」です。
自分が持っている物件がいくらくらいで売れるのか、おおよその販売価格を想定するために、物件の査定を不動産会社に依頼します。最近では、インターネットで物件情報を入力すると何社かに一括で依頼できるサービスも多くあり、簡単に手間をかけずに査定ができます。
査定の内容は、簡易な机上査定から始まり、実際に物件を見てから行う本格的な査定までいろいろあります。最近では、市場の不動産価格のデータの解析結果を基に数分で査定価格を提供する不動産会社も出てきており、そのデータ量も以前と比べると膨大になり、実際の取引相場に近い査定ができるようになってきています。
簡易な査定の場合、不動産会社から出された数字はあくまでも統計学的な机上の数字であり、その物件の中の状況や、排水管、給湯、暖房などの状況を詳しく見たものではありませんので、「最低限の目安」として利用するのが良いでしょう。実際に販売を始める際は、担当の不動産会社に実際に物件を見てもらって、現実的な査定価格を出してもらうようにしましょう。
例えば、同じマンションで同じ間取りの物件が複数あったとします。普通に考えると、築年数も同じですから査定結果はそれほど違わないと思いがちですが、実際には結構異なってきます。すぐに高い価格で売れてしまうものと、初めの価格より安くしても売れずに残ってしまう物件があるのです。
価格を大きく左右するのは、実際の使用状況。既に所有者が他に引越しを済ませていて、内装のリフォームなどがなされていればまだ良いのですが、所有者がそこに住んでいる場合、購入希望者が物件を見に行った時の第一印象が大きく変わります。当然、査定でもその分が差し引かれます。
第一印象の違いのポイントとなるのは、壁や天井などの汚れ、キッチン、洗面、バスルーム、トイレといった水廻りの汚れや臭い、設備が新しくなっていればその交換時期、動作の状況や故障があったかどうか、などです。さらに窓から見える外の景色によっても大きく変わることがあります。
これで場合によっては、5%から10%前後の価格差が出てしまうことは珍しくありません。1,000万円を超える物件になると、50万円、100万円といった大きな金額の差となります。常日頃から物件をきれいに使うことも大切ですし、簡易な机上の査定だけを基にして販売価格を決めるよりも、不動産会社の担当者により詳しく厳密な査定価格を出してもらうことが重要です。
査定額が確認できたら、「売出価格」を決めます。「売出価格」を決めるためには、その時点でのマンションの売買動向を見る必要があります。その地域全体の売れ行きが順調に伸びている時期もあれば、経済状況などによって、販売がなかなか活発に行われない時期もありますので、よく見極めることが肝要です。
売買動向をよく理解している担当者であれば、ある程度適切な販売価格を設定できますが、状況は常に変化していますので、販売価格は「標準販売価格」、「最小販売価格」、「最大販売価格」の3つを想定することをお勧めします。
「標準販売価格」とは、査定価格と市場動向を勘案した時に、一番相場に近いと思われる価格です。この価格で販売した場合、約6か月の間に契約がまとまることを想定します。この価格で売れることが理想です。
「最小販売価格」は、市場価格である「標準販売価格」よりも5%から10%ほど下げた価格です。資金使途からも勘案して、最低でもこの価格で売れれば良い、という価格です。「最大販売価格」は、最小販売価格とは反対に「標準販売価格」よりも5%から10%ほど上げた価格です。市場から考えても少し高めだけれど、これくらいで売れれば手元に残る金額も多くでき、その後の資金繰りも楽になる、という価格です。
いずれにしても、最終的に販売価格を決定するのは売主ですので、今現在の市場動向を営業担当者によく確認し、分析しながら決定していきます。特に買い替えたい場合は、買いたい物件の動向も見ながらになりますので、早い決断が必要になってきます。信頼できる営業担当者と小まめに連絡を取り合うことをお勧めします。
少し余裕のある状況ならば、販売価格を決めてから、しばらく様子を見てタイミングを計ることも重要です。特に、近くに大規模なマンションがある場合は、春先や秋口の住み替えシーズンにある程度まとまった数の部屋が一斉に売り出されることがあります。わざわざそこに合わせる必要はなく、同じような物件ができるだけ少ない時期に、後出しにならないように注意しながら時期を見計らうことも、早く販売するための方法の1つです。
以上のように、常に市場の動きを見極め、周辺の販売状況を確認しながら販売活動をしていった方が、売主にとって良い結果をもたらします。
インターネットで、不動産売買のほとんどのステップを自分でできるようになったとしても、不動産会社の営業担当者がいつも自分についていて適切なアドバイスを受けられるような状況にしておく方が、より安心して自己所有の不動産を売ることができるのではないでしょうか。担当者に相談することで、結果的により高く売ることができれば、媒介手数料を支払う価値もあるというものです。
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