第二回目『リマンショック(離婚×マンション)』の傾向と対策

30%以上のカップルが離婚を経験するといわれる大離婚時代。 離婚時に頭を悩ませるのが、購入したマンションに関するアレコレですが、離婚+マンションにまつわる様々なエピソードをご紹介していく企画シリーズです。

更新日:2017年02月28日

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イエシルコラム編集部

株式会社リブセンス

IESHIL編集部

東京・神奈川・千葉・埼玉の中古マンション価格査定サイトIESHIL(イエシル)が運営。 イエシルには宅建士、FPなど有資格者のイエシルアドバイザーが所属。ネットで調べてわからないことも質問できるイエシル査定サービスを展開しています。

Yさんご夫婦のケース

ご主人が一部上場企業で働き、奥さんがパートで働くYさん夫婦。子供の誕生を機にマンションを購入した。
ご主人名義で住宅ローンを組んだので、マンションの所有をご主人名義に。すべて愛するご主人が決めたことなので、奥さんはこの時、何の不満も持っていなかった。

家族3人の幸せを感じる日々。それがずっと続くはずだったのに、子供が小学校に入学した頃から少しずつ狂い始めた。言い争いが増え、次第に夫婦の溝は深まり、2年後には離婚を余儀なくされてしまった。

どんなに溝ができても、子供のこととなればピタリと溝が消える。Yさん夫婦は話し合い、離婚後はご主人が家を出て、奥さんは子供を引き取って自宅に住み続けることで合意した。夫婦ともに、「子供の就学環境を変えたくない。転校は避けたい」という思いがあったからだ。

そこで、ご主人名義のローンと所有を、奥さん名義に切り換えるということで話はまとまった
しかし、この流れの中に思いも寄らない壁が立ちはだかっていた――。

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――いやあ、川上先生。ご主人名義の住宅ローンを奥さんの名義に切り換えるなんて簡単そうですが、何か問題が?

川上:銀行では、住宅ローンの契約者(名義人)本人がその家に住み続けることを基本条件としています。Yさん夫婦の場合、離婚によってローン契約者である夫が家を出て行き、妻が住み続けることになるわけですが、既存の契約のままでは条件に反しますよね。

妻が自宅に住み続けるには、銀行に足を運び、妻単独で住宅ローンの借り換えを行う必要があります。借り換えによって夫名義のローンの残額を一括返済できれば、妻への名義変更は完了。しかし、この借り換えは、容易にいく人と、そうでない人に分かれます。


――今回の奥さんのケースは借り換えが難しいケースにあてはまるんですか?

川上:そうなんです。ネックは妻がパート職だということ。

一般論として、妻が正社員である程度の収入を得ていて、勤続年数が最低2~3年であれば、ローンの借り換えは高いハードルではないと思います。ですが、妻がパート勤務や専業主婦などの場合、いくら担保となる自宅があっても、ローンを借り換えるのは極めて難しい。収入がなかったり、不安定だったりするからです。審査さえしてもらえなのが現実でしょう。


――それは悲しい。パート、専業主婦は弱い立場なのですね。

川上:もちろん、妻が正社員だったとしても、ローン借り換えの道が閉ざされてしまうケースもあります。加えて、銀行によっては、「離婚を理由にした借り換えには一切対応しない」という条件を設けているところが少なくないのです。


――えっ、正社員でも借り換えNGに? どういうことですか?

川上:法律上の問題ではなく、あくまで銀行の内規によるものです。正確に言えば、夫婦ではなく、「親族間売買の住宅ローンの借り換え」全般に対応しないことを定めています。
こうした内規があるところは、それに準じて借り換えはNGとされてしまうわけですね。もちろん、すべての銀行が、そうした内規を設けているわけではありません。ですから、A銀行でローンの借り換えがNGだったらB銀行に打診してみればいい。実際、離婚を理由にした借り換えに前向きに応じてくれる銀行もありますからね。

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――内規がないとしても、妻がパート職や専業主婦だと、現実問題としてローン借り換えは困難。そう判断されたら、八方塞がりなのでしょうか?

川上:いいえ、打つ手がないわけではないですよ。
大きくは二つ。パート職などでローンの借り換えが不可能だと思ったら、マンションの売却を考えるのもひとつの策です。売却の結果、ローン残額より高値で売れれば、借り換えに悩む必要はなくなります。事前にイエシルなどでマンションの資産価値を調べて、売却するかどうか判断すればいいでしょう。


――でも、それでは引っ越さなくてはならないので、子供の環境が変わってしまう…。もうひとつの策は?

川上:努力は必要ですが、正社員を目指すことですね。正社員の道が開けたら、2~3年経過したのちにローンの借り換えを申し込みます。そうすれば審査のハードルは下がり、借り換えが叶う可能性が高い。そしていざ借り換えが叶った後、自宅名義を夫から妻に変更します原則、夫のローンが残った状態では、不動産の名義変更はできないんですよ。


――後者の策を選択した場合、しばらくはご主人名義のローンのまま奥さんが自宅に住み続けることに。でも、これは契約違反という話でしたよね?

川上:はい。そのリスクは承知しておくべきでしょう。先に説明したとおり、住宅ローンの契約者本人が住み続けることが基本条件。離婚によってこれに反することを銀行に伝えると、ローンの一括返済を迫ってくるケースが少なからずあります。


――げっ。一括返済なんて無理に決まっているでしょ!

川上:そういった事態を恐れてか、銀行に対して、離婚後ローン契約者が家を出てくことを伝えない人も一定数いると推測されます。


――たしかに、そのほうが賢いかも。

川上:もっとも、実際に、銀行がローンの一括返済を迫るケースはそれほど多くはありません。妻が夫名義のローンで自宅にしばらく住み続ける場合は、もうひとつのリスクを警戒して備えておくべきでしょう。


――他にもリスクがあるんですか?

川上:後者の策では、妻がパート職から正社員になり、勤続2~3年経過するまでは夫名義のローンをコツコツ払っていくことになりますよね。で、やっと借り換えの審査を受けられる段階になったときに、たとえば夫が再婚していたとしましょう。しかも借り換え手続きをする前に急に亡くなった。すると、再婚相手の女性から「あなたが住んでいるその家は、妻である私が相続したんだから、さっさと出て行きなさいよ!」と言われるリスクがあるんですよ。


――でも、ご主人との話し合いでは、「残りのローンを全部払う代わりに自宅を譲り受けた」となっていますよね。

川上:いくら約束しても、それが口約束だけだと弱いんです。
妻が「夫とは、残りのローンを全部払う代わりに自宅をもらえる合意ができている」と思っていても、夫は「前妻には家賃としてローンを払ってもらっているけど、あれはオレの家だよ」と新しい妻に言っているかもしれない。となると、泥沼の争いになっていくわけですよ。このような争いを防ぐには、「公正証書」を作成しておくのが効果的な手段のひとつですね。


――公正証書とは?

川上:公正証書とは、公証役場にいる公証人と呼ばれる人が作成する公文書です。
離婚協議に伴って夫婦で決めたことを公正証書の書面にしっかり残しておくと、のちに何か問題発生したときでも、法的な拘束力を持つので問題解決につながります。その効力の強さについて、別の機会にまた詳しくしますね。


――ほほう。公正証書を作成したら、迂闊なことはいえなくなるわけですね(自分を振り返りながら…)

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◆結論◆

妻が正社員であれば、妻名義のローン借り換え、自宅名義変更もスムーズに進む可能性が高い
しかし妻がパート職、専業主婦の場合はそうはいかない。
借り換えをあきらめるならマンションの売却を視野に入れるべし。あきらめない場合は正社員を目指し、正社員になれたら数年後の借り換え挑戦を!

★川上先生プロフィール★
離婚と住宅ローンの問題を専門とする行政書士川上俊明
行政書士。オフィスシード代表。1974年生まれ。北海道出身。私立北海学園大学人文学部卒。合格率2.62%という超難関試験であった、平成17年度の行政書士試験に一発合格。資格取得後は、有名行政書士の元で、行政書士業務について徹底的に学び、現在は代表としてコンサルティング、実務を一手に引き受ける。離婚と住宅ローンの問題を専門とし、不動産、お金、子どものことなど幅広く相談に応じて精神的にもサポートを行う。「離婚と住宅ローン相談室」http://asu1.net/

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